キャラメルボイスのタイムトラベラー

僕は貴方の事解らないし、知らないけど

しげおかくん×アイスクリームシンドローム

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「あっつ…。」
当たり前や、8月頭の真っ昼間、まぶしいほどの青がどこまでも広がる空の下に出たら、刺すように照る直射日光に焼かれるに決まってる。
歩いても歩いても隠れられる日陰もない。
Tシャツが汗でくっつく。首元を摘まんでぱたぱたと扇いでも、ジメッとした自分の心のように、いつまでも乾く気配を見せない。

すぐそこによく行くコンビニが見える。あぁもう無理、太陽には勝てんわ。
逃げ込むように入ると体を覆う冷気。ふらふらと店内をうろつき体が保った熱気を逃がす。雑誌コーナーに昔よく読んだコミックが置いてある。懐かしさと共に浮かぶのは君の顔。君がここにいれば一緒に「懐かしいな」と笑えるんやろうか。
コミックを読みながら食べようかとアイスクリームも手に取った。会計を済ませまた熱の中へ舞い戻る。


熱の中で歩を進めても、さっき浮かんだ君の顔が離れない。
友達にお前ら付き合ってねぇのと何度聞かれたことか。その度に返す同じ言葉。「何もないわ。親友親友、何でも話すし。」付き合いは長いが関係性は初めの頃から何一つ変わらない。

何度も遊んだし、何度も飲んだし、何度もメシに行った。それに、何度も伝えようとした。いい雰囲気を考えて考えて、打ち明けようとしても、それを知ってか知らずか君はいつものテンションで笑っていて、茶化されて終わって。格好もつかないままここまで来てしまった。

君と出会って、もう何年演じてるんやろ、君の人生の「親友」としてのキャスティング
誰よりも近くで君といられて、誰よりも近くで君の笑顔も怒った顔も見られる親友という距離感はとても居心地がいいけれど、苦しい。

幾度と無く乗ってきた君の相談、という名の恋愛トーク。「好きな人できたんやけど」「どうすればええかな」「○○くんがさぁ」という君の話を「シゲ相談しやすいんやもん」という一言に乗せられて聞く。
誰よりも信頼して打ち明けてくれたことへの嬉しさと、君の目に映るのは俺じゃないと突きつけられるように思える切なさが同居する、


微妙な心の中、バレないようにして。


この目の奥に映っては消える君の笑顔を、俺だけのものにしたい。どうにかして消えないように焼き付けられないんやろうか。この前覗いたカメラのファインダー越しの君は、想像していたよりずっとずっと遠くに立っているような気がして。このままいればきっと君はいつか誰かと俺の前から消えて行ってしまう。


見上げれば青い空真っ二つに割ってくジェット機
遥か空へ夏が飛んでいく。季節がもう 過ぎていく。


ゆらゆらと揺らめく世界の中で立ち止まる。
陽炎の奥のようにぼやけて見える目の奥の映像の中、君の顔だけは揺らがないではっきりと映っている。
俺の足を止めている「友情」という名前の大きな壁。まるで病気。出口のない永久迷路。入ってしまえば簡単に抜け出すことなどできない。下手に動いて奥深く嵌まるのも怖いから踏み出せないでいる。


そんなことを思って足を動かすうちにアパートに帰り着いていた。扇風機のスイッチを押し、コミックと一緒に買ったアイスクリームを開けると、 もうベタベタに溶けてしまっていた。運命と同じで、食べるまで悠長に溶けるのを待っていてなんてくれない。


あぁ、今、会いたい。すぐにでも。
いつになくマジメな声で誘い出してみようかな。そのまま連れ去ってしまえたならもう、勢いで抱え込んだ想いも伝えられるかも…


今度この前と同じようにファインダーを覗いたら、手を伸ばせば届きそうなほど、すぐそばに君の姿が見えるようになっていればええな。

「幸せ」と感じる瞬間は、なかったところから増えることはあったって、あったものが減るもんやない。君の隣で増やせばいい。

君と一緒にいられるなら、どの一瞬を切り取ったって、この世界は煌めいてみえるはず。