キャラメルボイスのタイムトラベラー

僕は貴方の事解らないし、知らないけど

じゅんたくん×飲みに来ないか

f:id:eightxjohnnist:20150701222204j:plain



「飲みに来ぇへん?」
久々に、君を家に呼んで、2人で、酌を交わして、話でもしようかと、思っていた、はず、だった。のに。
なんで俺は、1人で、2つの、汗をかいたグラスを目の前に座ってるんやろ。
なんやねん、あいつ。




君とのメールのやりとりの最後の、俺の誘いに対する、君からの
「これから行くね」
の一行をまた見つめる。
今日も俺は、また、1人で、グラスを片手に10日も前のそんなことを考えている。
俺も、君も、似たもの同士、思ったことは言ってしまうし、気が強いし、負けず嫌い。
最初はなんの話からあんなになってもうたんやっけ、思い出せないくらい些細なこと。でも少しずつ寂しかったこととか、我慢してたこととか、言いたいことがぶつかって、2人揃って止める方法が分からなくなった。


君の言葉の節々にいつもトゲがあるから
逆撫でされて気に入らなくて、ついカッとなってしまう。


だめだとは頭で分かっていても、君を小馬鹿にするような言葉や、自分を正当化するような言い訳は、とめどなく溢れて。
溢れた言葉の波は、君を飲み込んで、濁流になって、俺の部屋から追いやった。
このまま放っておいて、俺と君の性格で、いつの間にか元通り、なんてことになる訳ないことは分かってる。
君が、俺から連絡が来るのを待ってることも。
だっていつも君より先に俺が折れるから。
でも。


ごめんねとすぐに切り出して、飲みに来ないかって誘いたいけど、先に引きさがんのもシャクだな。それじゃまさに君の思い通りだ。

そういえば、この前楽屋に置いてあった雑誌。いつもそんなの流すようにパラパラとめくってしまう占いのページに、ふと目が止まった。俺の乙女座と、君の星座はなんやっけ…、あ。
「相性32%」
フォントも、色合いも暗くて、これがいい数字じゃないことは一目で理解できるものやった。
こんなん当てにならんわ、と思ったつもりやったのに。
また思い出すとか、思ってたより引きずってるやん、自分。
ダサ。
あんな馬鹿にしたけど、君は可愛くて、スタイルもよくて、頭が良い、自慢の彼女だってことは俺が一番知ってる。
だからこそ、分かってる。君を野放しにしておいて、そこらの男が放っておく訳がないことも。
手遅れになる前に、取り戻しに行かな。
何て言おう?なんて送ればええ?それとも口で伝えようか?
我慢比べならもうええやろ?十分や。朝まで2人で飲み明かしてあんなつまらない言い争いなんて忘れへんか?
言わなきゃならないことはたくさんある。
あれ…。
ふと頭をよぎる。
もしかして、君から連絡してこないのは。


まさかすでにどっかの輩と…そんなバカな 僕の思い過ごしさ…

君より先に謝らないなんていう、くだらないプライドなんかより、もっとずっと大切なのがあるやろと、頭の中で自分が自分に言い聞かせている。
君が隣にいなければ、2つのグラスが並ばなければ。
左手の少し汗ばんできたグラスの中のアルコールを、口に含んではみたものの、美味しかったからとまた買ってきたはずなのに、この前君と一緒に飲んだ時より、ずっと、味気なかった。


氷は溶け、強いアルコールを少しずつ薄めながら、揺れて、グラスの側面にカランと小さく音を立てて触れる。
音の方を一瞥すると、その先で淡く透明にゆらめく輝き。
左手を時計回りにくるりと傾け、淡い輝きの波を、ぐんと喉の奥に流し込んだ。
右手に光るディスプレイには君の名前。
うん、よし。


ごめんねとすぐに謝るのだ!君の文句だってとことん飲むぞ!
ここで引きさがんのが本当の男らしさ 僕の思う勝利だ
で、また僕は君の思い通りだ


明日は、君の好きなおつまみを沢山買ってこよう。
いくら飲んでもええように。