キャラメルボイスのタイムトラベラー

僕は貴方の事解らないし、知らないけど

あきと×大阪LOVER

華金のご多分に漏れず掛けられた、先輩からの飲みの誘いも振り切って、帰るのを遮るように終業ギリギリに入ってきた新しい資料も一心不乱に纏めて、ネオンと喧騒の中に向かう人たちとすれ違うように

「東京駅で。」

タクシーを走らせる。


急いだおかげで少し時間ができたから、おにぎりを一つとお茶だけ買って、新大阪行きの文字が小さく並ぶ新幹線に乗り込んだ。幸いそこまで混んでいなくてゆっくりと席に体を預ける。
携帯を開いて、

「最終に間に合ったよ 0時ちょい前にそっちに着くよ」

私の体より一足先に、右手から小さな望みを走らせる。
送ってから、やっぱり少し短すぎた?そっけないように見えないかな?と少し不安になりながら、おにぎりを口に運ぶ。
やっと叶った、たった2時間半の旅。
でも、そんな不安なんていらなかったようで。


いつもと同じ所に停まる彼の車を見つけて、一ヶ月ぶりの助手席に乗り込むと、お気に入りのTシャツとスウェット、サンダル。

あ、やっぱり。

分かってはいたけど、向かう先はいつもと同じ。
でもちょっとだけ、期待、してたんだけどな。


「ね、」

ちらりと右に目を向けても、運転している君の視線は前を向いたまま。

「そういえばさ、前に見に行ったじゃん、万博公園太陽の塔!久々に見たいなぁ…行かない?明日!」

「ん…そやなぁ…」

って言ってから君の口は動かない。
それはどっち?行くの?行かないの?
はっきり言ってや…。


もう数え切れないくらいここへ来ているし、数え切れないくらいあなたの言葉を隣で聞いている。
それなのに、あなたと同じになりたくて小さく口に出す大阪弁は、あなたのそれとは何かが違っていて、ぎこちない。
それにどこに行ったってあなたは「お前楽しそうやなぁ」と目尻を下げて言う。
でもあなた以外の前じゃこんなにはしゃいだりしないんだから。


…なんて、あなたは気付いてないと思うけど、もう喉の奥まで来ている言葉はたくさんあるよ。
でも、そこで引っかかって出てこない。
言えるわけないもの、そんなの。
出てきてしまえばもう二度と引っ込めることはできないし、すぐ頭を冷やしてごめんねって言える距離にはいつもあなたはいないから、けんかしてまた不安に月日を重ねるだなんて、絶対に嫌。


何度も通ったはずの、駅からあなたの家への道のりなのに、いつもより遅く時間が経っていくような、少しの沈黙。
まっすぐ伸びる御堂筋は今日も、いつもの夜と同じように、一車線しか動かないから、あなたの隣の席から見える景色はゆるゆると左を通り過ぎていく。
エンジン音ばかりが大きく聞こえる空間が息苦しくて、口を開く。

「ねぇ、家行く前にさ、何か飲み物買ってこうか?」

「ん…、そやなぁ…」

ほら、また。
いるの?いらないの?


コンビニの前に車を停めて、2人で自動ドアを通る。私は飲み物をカゴに入れて、あなたは店内をウロウロ。

「選んだん?」

「うん。」

「もう買うもんない?」

「うーん…大丈夫かな?」

「ん、じゃ行くで。」

私の持つカゴを覗き込み、持っていた期間限定のポテトチップを放り込むと、私の手からジュースとカゴの重みが消えた。

ほら、そういうところが。

会計をしてくれる彼の背中に、これからこうやって並んで夕飯の買い物するようになれる日は来るのかな、とふと思った。


もう数え切れないくらいここへ来ているし、数え切れないくらいあなたの隣を歩いている。それなのに、私はあなたと同じ部屋に入るのにただいまとは言えない。
そのことが、少し、いやもっと、私をひねくれ者にする。
口に出してしまいたい、もう喉から出掛かっている、たくさんの言葉。


あぁもう、こぼれる。


あなたはきっと私のことを考えてくれているんだと分かってる、信じてる。

でも。

将来大阪のオバチャンって呼ばれたい。

たとえお父さんやお母さんや、地元の友達と離れてしまっても、この街で暮らしたいの。

赤く輝く東京タワーだって、手をつないで見たあの少し塗装の落ちた銀色の通天閣にはかなわないんだよ?


勢いに任せたようにバラバラとこぼれ落ちた本音。
なのにあなたはまたそうやって。
なんで、なんでそんなに笑うの。
あんなの、プロポーズしたようなものじゃない!
もう、一度溢れてしまったものはとめどなくて。


何回来たって飽きずにまたこの街に来たくなってしまうのはあなたがいるからだし、
どこに行っても楽しいのもあなたがいるからだし、
どんなに喧嘩したって離れられないのはあなただからだもん。

全部あなたが隣にいるからなのに。

大好きなの、大切なの。

もう早く、こっちで住もうって言ってよ。


…あぁもう。言ってしまった。
怒られるかな。嫌われるかな。笑われるかな。
そんなごちゃごちゃした想いは、あなたの優しい笑顔に乗った言葉によって、消えた。




やっぱり、大阪は、憎らしいくらいに恋しい。と思った。




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